おらおらでひとりいぐも
若竹千佐子さんは芥川賞を受賞されたときにとっても話題になりました。デビュー作が受賞作ということ、そして受賞時の彼女の年齢。
もう5年も経っていますが、今でもそのニュースが鮮明に記憶に残っています。
にもかかわらず読んでいなかったのは、流行には乗らないぞ、と、ちょっとひねくれていた頃だったのかもしれません。もっと早く読めばよかった!
長年連れ添った夫を55歳で亡くし、そこから小説講座に通い始めたそうですが、63歳で文藝賞と芥川賞受賞、と、見事です。2020年には映画化もされた『おらおらでひとりいぐも』。
タイトルの『おらおらでひとりいぐも』は、宮沢賢治さんの詩『永訣の朝』の一節だそうですが、私は宮沢賢治さんとお誕生日が同じ8月27日なので(ちなみにCM出演中エースコックのワンタンメンも同じ誕生日)、ぐっと親近感がわきます。
肝心の内容はというと、都市近郊に住む桃子さんという一見無口な74歳の女性が、実は心の中では東北弁で喋りまくっているお話です。喋りすぎて心の声がジャズセッションを起こしたり、心の声を小腸の「柔毛突起」と名付けたり。
結婚式(お見合い結婚)の3日前に故郷を飛び出して上野駅に降り立ち、都会で出会ったイケメンと恋に落ちて結婚、なんて、かなりドラマティックな人生を送ってきたけれど、74歳の今は、夫に先立たれ、二人の子とも疎遠に…寂しさと同時に身軽な自由さも感じている。
夫の死に少し喜びも感じている、それだけ聞くと怖い感じもしますが、夫婦で生きている間は「妻として」精一杯やってきて、そこから解放された時に感じる感覚は、喜びなのかもしれませんね。寂しさも勿論あるけれど。
私にとって東北弁は、すっと入ってくるというよりは、わかりにくい分ゆっくり読むので濃厚に感じます。東北出身の方が読むと、この部分はさらさらっと読めるのかな。
(東北は女性も一人称は、おら、なんですね。)
私の祖母もどこかへ出かけようかというと、急でもささっとお弁当をこしらえる人だったので、桃子さんがお墓参りのためにお弁当をパッとつくってしまう描写は亡き祖母を彷彿とさせました。桃子さんは一口大のおにぎりでしたけど、祖母は山下清のような大きなおにぎりをボンボンっという感じでしたよ…。おかずはたいてい、淡竹のメンマとキャラブキと卵焼きでね。
そして…ジャズセッションと柔毛突起が映画版ではどうなっているか気になって仕方ありません。
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